一番面白かったイギリス史
私はイギリスについて書かれた本を結構読みましたが、中でも一番面白かったのが、西洋歴史小説家、
佐藤賢一氏が著した「英仏百年戦争」(集英社新書)です。イギリス史の固定観念がひっくり返るような本でした。
この本は、英仏が14世紀から15世紀にかけて覇権を争ったいわゆる百年戦争は、一般的な歴史の本では、
フランドルの羊毛貿易問題やフランスの王位継承問題などを争点に行われた英仏間の戦争ということになっているが、
実態はフランス人同士の内輪もめの戦いだったという内容です。
この本によれば、そもそも11世紀にイングランドを統一したと言われている「ノルマンディ公ウイリアム一世」自身が、
フランス生まれでフランス語を話す歴としたフランス人ギヨームでした(ギヨームの英語読みがウイリアム)。
イングランド統一後もギヨームの本拠はフランスに置かれ、ギヨームの感覚では、
イングランドはノルマンディー公国の海外植民地にすぎませんでした。
イングランドは、以後ウイリアムの時代からヘンリー(アンリの英語読み)の時代に移行し、
歴代ヘンリー達は母国フランスの王位を取り返すことが願望でありましたが、
代替わりするうちに徐々にイングランド人の自覚を持ち始め、漸く16世紀のエリザベス女王の時代になって、
イングランドはウエールズやスコットランドを統一し、欧州の一流国になっていったのが実態という訳です。
ところが、どうしてイギリス人や世界の多くの人々は、この歴史をイングランドとフランスの戦争と理解しているのでしょうか?
それは、偉大な作家、シェークスピアの果たした役割が大きいと言われています。
シェークスピアの時代はエリザベス一世がスペインの無敵艦隊を破り、欧州の一流国になりつつあった時代で、
彼は意気高揚の世相に乗って、中世の頃からイングランドは欧州の一流国であったという風に歴史を改ざんしたというのです
(上記のイングランド王ウイリアムやヘンリーはシェークスピアによりイングランド人として描かれた)。
イギリスにはシェークスピア症候群というのがあり、彼の史劇は、シェークスピアを誇りとするイギリス国民、
ひいては世界の人々の歴史認識まで左右しているという訳です。
以上がこの本のポイントですが、自国の歴史を美化するのは万国共通の衝動という訳です。
J.I.
(注)文中イギリス(英)とイングランドが混在していますが、
ウエールズやスコットランドを統一する前のイギリスはイングランドしかなかったので、一応使い分けをしています。