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2024.12.13 コラム

武士道とは“BUSHIDO”と見つけたり?

今、混迷の度合いを増々深めている世界情勢ですが、とにかく一日も早く各地の紛争が解決され、
平和が実現されることを世界中の人々が願っていることは間違いないと思います。

 

ところで、戦前に国際連盟という機構があったという事実は、皆様よくご存知と思います。
第一次世界大戦の惨禍の経験から、国際紛争を回避するための世界的な枠組みを作ろうという理想のもと、
1919年に発足したわけですが、歴史の教科書など紐解いてみますと、やはりその実効性については否定的な見解が多いようです。
確かに、最終的には第二次世界大戦を防ぐことも出来なかったわけですし、
結果だけで判断する限りでは、十分に機能したという評価は難しいかもしれません。
ただ、その中にあっても、実際に国際紛争を回避、解決した事例は、いくつかあったようです。

 

フィンランドとスウェーデンの間にオーランド諸島という島があります。
1923年、この島の領有権をめぐり、両国の間に緊張が高まりました。
細かい経緯は省略しますが、最終的にこの問題の解決は国際連盟に付託されることとなり、
本件の解決に奔走した当時の事務次長の裁定案が正式に採択され、
この領土問題は紛争に至ること無く、平和裏に解決されたのです。
この問題を担当し、解決に尽力した国際連盟事務次長こそ、新渡戸稲造という一人の日本人でした。

 

折しも今年は新札発行の年ですが、二代前の五千円札のモデルにもなった新渡戸稲造は、勿論誰もが知っている人物ですので、
その業績についてここで字数を連ねることは差し控えますが、その中で一つ、
個人的には、英語で“BUSHIDO”という本を著したことが、強く印象に残ります。
日本語で説明しろと言われても難しい武士道という、幅広く奥深い価値観を、英語で一冊の本に書き記したということ自体、
日頃から英文に悩まされることの多い筆者としては、もはや超人的な偉業に思えます。
江戸時代に生まれた人間が、日本人の深層に連面と受け継がれている根源的な価値観について外国語で世界に発信し、説明する。
そして国際政治の舞台で堂々とリーダーシップを発揮し、非常に複雑かつ危険に満ちた領土問題に取り組み、
見事に平和的な解決をまとめ上げてしまう。まさに驚くべきことと思います。
この人物の能力と卓見の、せめてその1%でも自分に恵まれていたら、と思わずにはいられません。
と同時に、国際社会における日本人のプレゼンスという面で、大きな足跡を残してくれた先達に対し、
尊敬と感謝の念を忘れないようにしたいと思うものです。

 

それにしても、後世の教科書には、国際連合はどのように記載されるのでしょう。
歴史の評価を待つのみですが……

M.M.

2024.11.29 コラム

ハロウィン

10月末に、5歳と3歳の孫を連れて、東京ディズニーランドに行ってきました。
ちょうどハロウィンの時期で、ディズニーランドは大変な混雑でしたが、何といっても驚いたのは、仮装をしている入場者の多さです。
初めはディズニーランドのスタッフかと思いましたが、スタッフがそんなに沢山いるわけがありません。
入場者がそれぞれのキャラクターに扮して、堂々と園内を練り歩いています。
外国人も負けてはいません。西洋人の女性がシンデレラや白雪姫の格好で歩いていると、本当に様になります。

 

しかし、私が駐在した時代には、アメリカやイギリスで、ハロウィンの時期にこんなに大人が仮装して集まるところはありませんでした。
ハロウィンはあくまで子供の行事でした。
アメリカ駐在時代は(1980年代終盤から1990年代前半)、この日(10月31日)だけは早めに帰宅して、
子供の手を引いて近所の家を回りました。
普段外からしか見ることのできない豪邸のドアを叩いて、子供にTrick or treat!と言わせ、
ドアがあくと、子供がお菓子をとっている間に、中はどのようになっているのか見るのが楽しみでした。
いずれにしても子供中心の素朴なお祭りだったと記憶しています。

 

ところが、現在の日本のハロウィンは欧米のハロウィンとは全く違います(今はどうなっているかわかりませんが)。
日本のハロウィンはいつの間にか、子供の行事ではなく、大々的な大人のお祭りになっています。
渋谷のスクランブル交差点に限らず、全国のあちらこちらで結構な騒ぎになっています。
日本のハロウィンを目当てに外国から来る人も多いと聞いています。
これは子供の行事ではなく、正に日本人の季節の一大イベントです。
これを見て私は、日本人は、子供の行事や祭りを(しかも外国の)大人の文化にしてしまう凄い国だと思いました。
アニメも良い例です。日本のアニメは世界中にファンを広げ、アニメの聖地やグッズを求めて、世界中から日本に観光客がやってきます。
このような文化、即ち子供の世界を大人の文化に昇華させる文化は(これを文化と呼んで良いのかわかりませんが)、他の国にはありません。
ディズニーの世界が唯一の例外でしょうか。
日本人の大人が、いつまでも子供っぽさを残しているという言い方もできるのかもしれませんが、
それが世界の若者の共感を呼び、Cool Japanとして一つの潮流になっているのです。
100年後の歴史家は、日本発の「あの」文化は21世紀初頭に始まっていると言うかもしれません。
J.I.

2024.11.15 コラム

ケルトの国―アイルランド小噺《アイルランドの祝祭日(2) 聖ブリジッドデー② 》

今回は前回に引き続き「聖ブリジッド」とはアイルランドにおいてどういう存在であるかについてご案内させていただきたい。

ケルトの女神に由来するとされる聖ブリジッド(St Brigid)は、聖パトリック、聖コラムキルに並ぶアイルランドの3大守護聖人のひとり。
「ケルトのマリア様(Mary of the Gael)」の異名を持つ人気の聖人で、5世紀にアイルランド初の女子修道院を開き、
生涯にわたり貧しい人や病める人のために祈り、施しを捧げたと伝えられている。

 

修道院建立にまつわるブリジッドと布(ショール)の以下の伝説が有名である。
修道院建設のための土地をください、とケルトの王に願い出るも、王はなかなか首をたてにふらなかった。
そこで「私が身にまとっているショールで覆えるだけでよいからください」と王を説得。
承諾を得たブリジッドは4人の修道女に広げたショールの四隅を持たせ、東西南北へ駆け出すよう指示する。
すると布がどんどん広がり、カラ(Carragh=アイルランドのキルデアに隣接する平原)全体を覆いつくしてしまい、
その広大な土地に修道院を建てた…と伝えられている。

ブリジッドはそこで作物を育て、家畜を飼い、乳製品を作り貧しい人に分け与え、病人を癒し、
金属細工の工芸学校まで開いたと言われていることから、経営手腕にも長けていたようである。
驚くべきことは、男性修道士用の修道院も隣接させて、お隣り同士で共同作業をしていたこと。
修道士、修道女は貞操を守り結婚しないことから、独身男性、独身女性が清く正しく暮らしていたのだろうか。
内情はともあれ、その当時としてアイデアとしては驚くほど進歩的で、その後アイルランド各地に修道院を建設し、
時にはスコットランドやイングランドへも修道女たちを引き連れて巡礼と施しの旅をし、
病める人のために忙しく活動したというその生涯は、まるで5世紀のスーパーウーマンといっても過言ではない!

 

そのような女性活躍、ダイバーシティの元祖ともいえる活躍から聖ブリジッドのアイルランドでの人気は高く、
近年女性の権利や活躍のアイコンとされてきている聖ブリジッドに

ちなむ2月1日が、国民の祝日となったことは、アイルランドがダイバーシティ、
ジェンダー先進国であることを象徴するような出来事と言える。

ちなみに、日本においても筆者が役員を務めている在日アイルランド商工会議所とアイルランド大使館では、
この記念すべき日に本年より共同で“女性活躍”にフォーカスしたイベントを開始したことを最後にご参考までに付記しておきたい。

それでは、次回以降は、アイルランドの国民的な祝日、祭日として世界的に有名な“セントパトリックスデー”の中心人物である
「聖パトリック(St. Patrick)」についてご案内させていただきたい。

Y.T.

2024.11.01 コラム

2024 パリオリンピック雑感(その2)

結局7月26日の開会式はホテルのテレビで見る羽目になり、翌日から8月1日まではスペインへの小旅行を経て、
8月2日から本格的に競技を観戦することとした。
観戦第一日目は男子バレーボール予選ラウンドの日本対アメリカであった。
試合前の練習コートでは石川祐希選手や西田有志選手、高橋蘭選手らのご尊顔を近距離から生で拝ませていただいたが、
国内ではなかなかこういった機会はないだろうなと思った。
試合が始まり第一セットの途中で照明が全部落ちて対戦が約3分間中断するというハプニングがあった。
生本番で停電が発生する事態を見たのは、子供の頃のドリフターズの「8時だよ全員集合」の生中継での停電以来である。
観客が手持ちのスマホのライトを点けながら大きく揺らして試合の再開を促していたが、
その場面はビッグアーティストのコンサート会場を彷彿とさせた。これも貴重な体験か。

 

日本チームの前評判は上々でメダル獲得も期待されていたが、この日は結局アメリカから1セットしか奪えず完敗であった。
最終成績も第7位で残念ながらメダルの獲得はならず、対戦したアメリカは第3位で銅メダルを獲得した。

 

停電中のバレーボール会場(Arena Paris Sud 1)

 

T.H.

2024.10.18 コラム

忘れ得ぬワンラウンド

ゴルフにご興味のない方には申し訳ありませんが今回はゴルフにまつわるお話です。

話は今から35年前の1989年9月のこと。
当時北京に駐在していた私はひょんなことから北朝鮮の平壌に出張することになりました。
その年に平壌で「アジア・アフリカ再保険会議」と称する国際会議が開催されることになり、
本社からその会議に出席する再保険部長に同行することになったのです。
つまり「カバン持ち」です。
9月某日の晴天の日、北京空港から高麗航空に乗り一路平壌へと向かったのでした。
「この目で何でも見てやるぞ!」心の底から湧き上がってくる好奇心は抑えようがありませんでした。

 

肝心の会議ですが、全て英語のうえ再保険などトンとわからない私には退屈そのもの。
実は渡航前に調べた情報で平壌郊外に立派なゴルフ場(「平壌ゴルフクラブ」)があることを知っていました。
「千載一隅のチャンス。会議なんかに出ている場合じゃない。」
北京から一緒に行った同業の駐在員をけしかけて二人で一緒に行くことにしました。
通訳兼世話係の青年に「ゴルフに行きたい。」と伝え、少々時間はかかりましたが何とか許可を得ることに成功。
(その青年も我々に同行することが条件でした)

タクシーで走ること30分弱でゴルフ場に到着。
立派なクラブハウスが我々二人を迎えてくれました。
コースに出てまたびっくり。青々とした芝にきちんと手入れされたグリーン。
プロのトーナメントでも開催できそうな実に素晴らしいコンディションでした。

 

さて、記念すべき第一打は力んでしまい見事なチョロ。
その瞬間キャディーが「ナイスショット!」と言うではないですか。
外国からのお客さんにはどんなショットでもそうやって言いなさいとでも言われているのでしょうか。
その日は他のプレーヤーの姿は見えず、ほとんど貸し切りに近い状態でした。
平壌ゴルフクラブを貸し切ってツーサムでプレー。
これまでゴルフは何百ラウンドやったかわかりませんが、その中で平壌でのこのゴルフは今でも忘れ得ぬワンラウンドです。

 

残念ながら写真撮影は許可してもらえなかったので、プレー中の雄姿(?)はお見せできません。
その姿は私の心の中のネガに焼き付け今でも色褪せず残っています。
Y.S.

2024.10.04 コラム

ケルトの国―アイルランド小噺《アイルランドの祝祭日(2) 聖ブリジッドデー① 》

皆様はジェンダーギャップ指数という言葉をお聞きになったことがあると思うが、
毎年世界経済フォーラム(WEF)が発表する男女格差の現状を各国の統計をもとに評価した
「Global Gender Gap Report」の中で各国の現状を評価してランキングを作成している。
ご存じの通りおひざ元の日本では、恥ずかしながらきわめて低いランキングに甘んじており、
最新の2024年版でも118位でG7の中でもダントツで最下位であり、
アジアの中ですら韓国・中国よりも低い情けない現状にある。

 

一方、アイルランドは、毎年トップ10にほぼランク入りしていて、
2024年版でも世界ランキング9位と非常に高位にあり、現実にかなり男女格差が少ない国の一つと言える。
ちなみに、男女格差解消だけでなく、LGBDも含めてダイバーシティの取り組みの先進国としてアイルランドは進化を続けており、
例えば、2015年に同国は、国民投票で同性カップルの結婚に賛成した世界初の国となるなど、
国の政策の基本にダイバーシティを組み入れている。
ただ、それもここわずか30年位で、アイルランド自体が必死の取り組みで成し遂げてきたもので、
日本としても参考にすべき点が多々あると常々感じている。

日本の現状は、とにかく個人的にも嘆かわしく感じており、改善をリードしていくべき政治の世界が最も遅れている状況は、
この問題に限らず日本の政治が今や日本の成長や進化を阻む最大の阻害要因のひとつとなっていることに反論される方は、少なかろう。

 

さて、アイルランドの聖人で最も有名なのが、
アイルランドにキリスト教を布教したとされるご存知「聖パトリックス(セントパトリックス)」であるが、
それと並んで人気の女性の聖人が、「聖ブリジッド(セントブリジッド)」である。
毎年2月1日がアイルランドでは、”セントブリジッドデー”と呼ばれる祝祭日で昨年より、
国民の祝日に格上げされるほど注目されている祝祭日となっている。
(実際の祝日は、2月第1月曜日で2月1日が金曜日に場合は、その日となる。)
特に、欧州やアイルランドでは、ご存知の通りそもそも日本と違って祝日が少なく(アイルランドの祝日:10日間、日本の祝日;16日間)
新しい祝日がなかなか設定されにくい中で、この日が祝日まで近年格上げされたことに影響したと考えられているのが
前段で取り上げさせてもらったアイルランドでの女性の活躍やダイバーシティへの取り組みである。

それでは、次回にこの「聖ブリジット」とは何者で、
なぜアイルランドで祝日になるくらい注目されているかについてご案内させていただきたい。

Y.T.

2024.09.20 コラム

2024 パリオリンピック雑感

2020(実際は2021年に実施)東京オリンピックを楽しみにしていたが、結局無観客での実施となり大変残念であった。
その反動と言っては何だが、2024年のパリオリンピックは絶対に現地で味わうということを決めて、開催の2年前から準備を始めた。
先ずはチケットの申し込みが出来るように公式サイトを登録し、チケットの販売を待った。
また、航空券や宿泊ホテルは予約可能になり次第確保できるよう準備した。

 

その甲斐があって、いくつかの種目のチケットを入手することが出来、
また、宿泊も各会場への移動が便利なパリ中心部の宿を確保できた。

久々のヨーロッパであったが、何よりも驚いたのがそのフライト経路であった。

日本の航空機はロシアの上空を飛行しなくなったため、
ベーリング海に沿ってアラスカの北を通りグリーンランドを横断するコースで飛行してパリまで飛ぶ14時間のフライトであった。

当初開会式は無料で観覧できるという話であったため、開会式のチケットを入手していなかった。
直前になってチケットを持たない者は観覧できないようフェンスが張り巡らされ、物凄い警備網が敷かれた。
それでもどこかの隙間からセーヌ川を下る日本選手団の船を見ることが出来るのではないかと甘い考えがあった。
隙間を探すため、セーヌ川沿いをうろうろしていたら雨が降り始め、観覧は断念、結局ホテルのテレビで開会式を見ることになった。
風邪を引かずに済んで良かったというのは単なる負け惜しみである。(続く)

T.H.

2024.09.06 コラム

一番面白かったイギリス史

私はイギリスについて書かれた本を結構読みましたが、中でも一番面白かったのが、西洋歴史小説家、
佐藤賢一氏が著した「英仏百年戦争」(集英社新書)です。イギリス史の固定観念がひっくり返るような本でした。

 

この本は、英仏が14世紀から15世紀にかけて覇権を争ったいわゆる百年戦争は、一般的な歴史の本では、
フランドルの羊毛貿易問題やフランスの王位継承問題などを争点に行われた英仏間の戦争ということになっているが、
実態はフランス人同士の内輪もめの戦いだったという内容です。

この本によれば、そもそも11世紀にイングランドを統一したと言われている「ノルマンディ公ウイリアム一世」自身が、
フランス生まれでフランス語を話す歴としたフランス人ギヨームでした(ギヨームの英語読みがウイリアム)。
イングランド統一後もギヨームの本拠はフランスに置かれ、ギヨームの感覚では、
イングランドはノルマンディー公国の海外植民地にすぎませんでした。
イングランドは、以後ウイリアムの時代からヘンリー(アンリの英語読み)の時代に移行し、
歴代ヘンリー達は母国フランスの王位を取り返すことが願望でありましたが、
代替わりするうちに徐々にイングランド人の自覚を持ち始め、漸く16世紀のエリザベス女王の時代になって、
イングランドはウエールズやスコットランドを統一し、欧州の一流国になっていったのが実態という訳です。

 

ところが、どうしてイギリス人や世界の多くの人々は、この歴史をイングランドとフランスの戦争と理解しているのでしょうか?
それは、偉大な作家、シェークスピアの果たした役割が大きいと言われています。
シェークスピアの時代はエリザベス一世がスペインの無敵艦隊を破り、欧州の一流国になりつつあった時代で、
彼は意気高揚の世相に乗って、中世の頃からイングランドは欧州の一流国であったという風に歴史を改ざんしたというのです
(上記のイングランド王ウイリアムやヘンリーはシェークスピアによりイングランド人として描かれた)。
イギリスにはシェークスピア症候群というのがあり、彼の史劇は、シェークスピアを誇りとするイギリス国民、
ひいては世界の人々の歴史認識まで左右しているという訳です。

 

以上がこの本のポイントですが、自国の歴史を美化するのは万国共通の衝動という訳です。

J.I.

(注)文中イギリス(英)とイングランドが混在していますが、
ウエールズやスコットランドを統一する前のイギリスはイングランドしかなかったので、一応使い分けをしています。

2024.08.27 コラム

上有政策下有対策(上に政策あれば下に対策あり)

この成句は中国人の気質をよく表しています。
意味は皆さんも想像がつくと思いますが、上(中央政府など)がさまざまな政策を制定・施行しようとしても、
下(民衆または地方政府)は唯々諾々とそれに従おうとはせず、
その政策を潜脱する方法をあれこれ考えて政策を骨抜きにしてしまうという意味です。
誠実で律儀な日本人は法律は守るべきもの、守るためにあるものと考えます。
一方、中国人は(極点な言い方をすれば)法律は隙あらば破ってもいいものと考えています。
どこかに抜け道はないかと考えるのです。

 

実はこんな経験をしたことがあります。
私が北京に駐在していた頃(2010年代)、ある日市内にある個人経営の衣料品店に行った際、何とも奇妙なTシャツを目にしました。
そのTシャツは白の生地に肩から斜めに太くて黒い線がプリントしてある代物でした。
その時は変わったデザインだな、センス悪いな、こんなTシャツを買う人がいるのかななどと思ったものです。

 

それから数日して街を歩いていると対向車線を一台の車がこちらに向かって走ってきます。
何気なく運転席を見ると何日か前に衣料品店で売っていたあのTシャツを着ているのです。
その瞬間、「あ!そういうことか。」と合点がいきました。
遠目に見るとあのTシャツはあたかもシートベルトをしているように見えるのです。
中国も法律によって走行中はシートベルトの装着が義務付けられています。
これを鬱陶しいと思う人は結構多く、そういう人がこのTシャツを購入して警察の目をごまかそうとしているに違いない。
さてその効果の程やいかに。

 

こんな喩え話もあります。
「青と白のゼブラ模様のシマウマを産出せよ」というお達しがお上から出ました。
日本人は「これは難題だ。でも遺伝子組み換え操作で何とかなるのではないか。」と至極真面目に考え頭を悩ませます。
一方、中国人は「簡単なことさ。黒い部分を青く塗ればいいだけの話。」
こういう奇想天外で柔軟な(?)発想こそが中国でさまざまなイノベーションが起こる根底にあることもまた事実かと思います。

Y.S.

2024.06.28 コラム

ケルトの国―アイルランド小噺《アイルランドの祝祭日(2) ブルームズデー② 》

英語文学が主流になってからまず皆さんがご存じのアイルランド作家は、
かの「ガリバー旅行記」を残した“ジョナサン・スウィフト”であろう。
彼は、英国人として知られているが、生まれは英国支配下のアイルランドで、
英国の支配下にあって虐げられたアイルランド人の側に立った著作は、アイルランド人の心を強くつかみ、
スウィフトはアイルランド民衆の間で英雄としてもてはやされてきた。
「ガリバー旅行記」は日本では子供のための冒険談として知られているが、
この作品にも英国のアイルランド支配への皮肉のまなざしが潜んでいると言われている。

また、「サロメ」「幸福な王子」などの代表作で知られる“オスカー・ワイルド”もアイルランドの作家として著名である。

 

これも余談となるが、皆様はかの“吸血鬼ドラキュラ”の原作がアイルランド作家の著作によるものであることをご存じであろうか?
怪奇小説の古典である「吸血鬼ドラキュラ」の作者ブラム・ストーカーは、
アイルランドのダブリン生まれでイギリス生活が長いことから英国人と考えている人も多いが生粋のアイルランド人である。

 

また、ついでにアイルランドとのかかわりが深く、日本でも最も有名な作家といえば、小泉八雲(ラフカディオン・ハーン)であるが、
小泉八雲とアイルランド、日本とのつながりについては、別コラムでご紹介したいので乞うご期待を。

 

さて、ブルームズデーに戻ると、ノーベル文学賞こそ受賞していないが、
アイルランドで最も著名な作家・詩人のひとりとして“ジェームズ・ジョイス”の名を上げても反対する人は少なかろうと思う。

20世紀のもっとも重要な作家のひとりして評価されているジョイスは、アイルランドのダブリン生まれで、
主要著作には「ダブリン市民」「若き芸術家の肖像」「ユリシーズ」などがある。

この人の小説は、きわめて難解で、筆者も英語本に何度となく読解にチャレンジしたが、

完読できずあえなく早々での挫折を経験させられていて、同じような経験をされている方は多いのではなかろうか。

その代表作「ユリシーズ」は、1904年6月16日に起こった出来事を描いているが、
毎年その6月16日を記念日として祝われているのが“ブルームズデー”である。

ダブリンを中心にアイルランドでジョイスにまつわる小説・詩の朗読会、演劇、映画を含む幅広い形で祝われており、
特に小説当時の衣装の特徴である帽子をかぶったおしゃれをして楽しむことが毎年アイルランドで華やかに行われている。

日本でも先月末から2週間にわたり“アイルランド映画祭”が恵比寿ガーデンシネマで開催されているが、
アイルランド大使館を中心にブルームズデーを祝うというイベントが企画・実施されている。

 

それでは、次回は、アイルランドの記念日の一つである、
”聖ブリッジッドデー(St. Brigid`s Day)“(2月1日)についてもご紹介させていただきたい。

Y.T.