欲望という名の電車
子どもの頃、あちこちに名画座があり、一昔前の洋画のリバイバル上映を行っていた。
そしてそれらを宣伝するためのポスターが掲示されていた。
「エデンの東」、「風と共に去りぬ」、「ローマの休日」など、
今でも名作と呼ばれる作品のポスターの中に「欲望という名の電車」という如何にも刺激的なタイトルのものがあった。
電車オタクの子どもであったその頃、「欲望という名の電車」の意味が分からず、
かと言って名画座でその映画を鑑賞する勇気もお金もなかったのでただただ想像するばかりであったが、
考えれば考えるほど「欲望という名の電車」の正体を解明することが出来ず謎は深まるばかりであった。
月日が流れ、大人になってその謎が解けた。
「欲望という名の電車」の原題は “A STREETCAR NAMED DESIRE” であり、
かつてニューオーリンズのDESIRE STREETを走っていた路面電車の路線名称であることが分かった。
テネシーウィリアムズの戯曲をエリアカザンが映画化し、
ヴィヴィアンリーやマーロンブランドといった名優が演じたこの映画は同性愛やレイプ、メンタル問題を取り上げ、
当時としてはセンセーショナルな内容であった。
映画は主人公のブランチが「Desire(欲望)」行きの路面電車に乗って途中「Cemetry(墓地)」行きの電車の乗り換え、
「Elysian Fields(極楽)」で降りるという興味深い始まり方をするのだが、これらはいずれも実在した、または今でも実在している。
因みに筆者が30年ほど前にニューオーリンズを訪れた際、土産に DESIRE線の陶器絵を購入したのを覚えている。
家のどこかにあるはずだが。
T.H.